新型コロナウイルス感染症において、抗体検査は現在キットをとりよせれば診療所でも検査は可能です。 抗体検査を施行する目的としては 1:現在自分が新型コロナウイルスに感染しているかどうかを知りたい 2;自分に抗体があり、今後感染しない状態かどうかを知りたい の2つがあるかと思います 先にお話したように、ウイルス感染をおこすとその免疫反応としてIgM、IgGという抗体が産生されます この抗体は、通常感染後2-3週間後に上昇するとされ、免疫のはじめに作られるIgM抗体は、短期間で消失し、その後免疫抗体として強力なIgGが上昇し、しばらく持続して上昇するとされています(新型コロナウイルスではIgMはできにくいとする報告もあります) 感染後2週間以上経過していると、すでに発熱をふくめた何らかの症状があるか、あるいは重症肺炎をおこしている時期であり、PCR検査が拡充している現在、精度の高いPCR検査をうける必要があります。 そのため 抗体検査は「症状がまったくないが感染が心配。しかし現在PCR検査をうける対象にならない」という場合と思われます。しかし、先にお話したように新型コロナ感染症は感染早期に感染力が強く、抗体が検出される時期になるとすでに周囲への感染力のピークはすぎていることになり、感染予防の意味があるかどうかは疑問が残ります。 また自分に抗体があるかどうかの目的で検査をうける場合、問題となるのは @現在いくつか使用されている抗体検査キットの精度にバラツキがある A「抗体が陽性」イコール「感染はしない」といういわゆる免疫パスポートではない、の2点です 5月20日付けで日本感染症学会が 現在使用されている4社の抗体キットの精度を報告していますが、使用するキットによって精度にばらつきがあると結論づけています。特に特異度はキットによっては90%以下のものもあり、本当は陰性なのに「陽性」と誤って判断されてしまう可能性があることになります。またWHOのテドロス事務局長は4月24日の定例会見で、「抗体検査が陽性だったとしても再度感染しないという証拠はない」と明言しました。抗体は「ある」だけでは感染防止にはならずウイルスと戦えるだけの十分量がないと意味がなく、また新型コロナウイルスの抗体がどの程度持続するのかはまだわかっていません。 某パーソナルジムが、トレーニング希望者全員に新型コロナウイルス検査を施行することになったことが報道されていますが、この抗体検査をする目的はなんでしょうか。現在感染をしていないことの証明でしょうか。あるいは抗体をもっている人だけ選別することでしょうか。 抗体をもっている人だけが入会できるとすれば、日本の抗体保有率の報告では一般に0.5〜1%程度ですので、100人申し込んでもせいぜい1人くらいしか入会できないことになります。 逆に、当初抗体が陰性の人が入会したとしても、トレーニングをうける数ヶ月間の間、定期的に抗体検査を施行しなければならず、また途中で抗体陽性となった人がでた場合、すでのその周囲の人たちは濃厚接触者になる可能性があります。結局は「できるだけ感染を予防する策をお互いにとる」といったことしかないことになります。 少し調べたところ抗体検査キットの原価は概ね一人あたり5000円前後ですので、人件費を加えても、20000円以上で検査をおこなっている医療機関での検査を考えている方は「今の自分に検査が本当に必要かどうか」もう一度考え直したほうがいいと思われます。 以上から現時点での抗体検査についての結論(私見)は以下のとおりです @抗体検査を実施するならもう少し精度が安定したキットがでてから使用したほうがいいA新型コロナウイルス感染症において、急性期の診断目的からは疑問符が残る B抗体検査は「市中にどのくらい抗体保有率が増加しているかのめやすとしての調査対象の検査」と考えられ、個人がうけても不確定な要素が多いC今後ワクチンが開発された時点では、将来的には抗体検査は、ワクチン再接種の判断には有効と思われる
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