「with コロナ」は可能なのか? |
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東京都は「これからの時代は新型コロナウイルスと共に生きる必要がある」ということから「with コロナ」を掲げました。 生物界では「共生」という言葉がありますが、「共生」を辞書で引くと「いっしょに生活すること。二種の生物が互いに利益を交換して生活する相利共生をさす.スーパー大辞林」と書かれています。 地球ができた当時、大気は水蒸気と二酸化炭素に満ちており、生物は存在しませんでした。約40億年前、海洋中に光エネルギーを利用して有機物を合成する際に酸素を放出する「光合成細菌」が出現しました。これにより地球の大気は酸素濃度が上昇し、生物にとって有害な紫外線をブロックしてくれるオゾン層が形成されました。そして現在に至るまで、微生物は生物が暮らすための地球環境を維持してくれており、細菌の多くは人間と共に、身体のいろいろな部位で常在細菌叢(そう)を作り、人間にとって相利共生関係にあります。 「生物」には次の特徴があります。 @「細胞」からできている A遺伝物質DNAによって自己を複製する B環境からの刺激に応答する C環境からエネルギー物質(ATP アデノシン三リン酸)を合成し、そのエネルギーで生活・成長する。 ところがウイルスは「蛋白質と核酸(DNA、RNA)からできた分子集合体」であり、細胞や代謝系をもたず、自己複製はしますが、感染した宿主側の物質を用いる必要があり、宿主の中でしか増殖できないことから、「生物」の定義にはあてはまらない存在です。 そのため ウイルスは、人類と「共生」するといっても、一方的に人類の体を借りて増えているだけであり、少なくとも人類の側にとっては、なんら利益をもたらしてくれるものではなく、「共生」というより「人の都合も聞かずかってに同居したきたもの」のような存在です。 「ウイルスと共生して生きよう」というのは聞こえはいいですが、たとえばエボラ出血熱のような致死率の高いウイルスとは、とても「共生」したいとは思いません。 新型コロナウイルスの立場に立てば、「自分は地球からいなくなりたくない」のであれば、せめていっしょにいても迷惑をかけない存在でいてほしい、と願わずにはいられません。ウイルスにとっても、その毒性が強いあまり自分が感染した宿主がいなくなってしまうようでは自分も生きていけませんから、時間が経過すれば人間にとっては弱い存在のウイルスだけになります。 毒性の強いウイルスとして存在している間は、人間のほうが自分を守るための防御策をたてるしか方法がありません。そのために我々は、有効なワクチンができるまで、そして本当はいっしょに居たくはありませんが、ウイルスのほうがどうしても家から出ていきたくないのであれば、いっしょに居ても迷惑をかけない存在となるまでの間、もう少し辛抱強く、人間どおしの距離をとっていくことが必要なのかもしれません。 子供の頃、家族全員でみていた「8時だよ。全員集合」の志村けんさんを奪った新型コロナウイルスに対し、「共生」というのは癪(しゃく)なので、[with コロナ」の代わりに、独自にキャッチフレーズを考えてみました。 「ちょっとだけよ コロナ」(これは加藤茶でした) |
2020年6月4日(木) |
N95マスクのお礼 |
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5月29日当院におけるテレビ朝日報道ステーションの取材で、 「医療用マスクが不足している」ことを報道していただいたところ、 各地からN95マスクを送っていただきました。これから予想される第2波、第3波を迎えるにあたり、スタッフ一同呼吸器のクリニックとして今後とも地域医療に少しでも貢献していきたいと思っております。皆様のご好意、本当にありがとうございます。この場をかりまして御礼申し上げます。 |
2020年6月2日(火) |
現時点での抗体検査について |
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新型コロナウイルス感染症において、抗体検査は現在キットをとりよせれば診療所でも検査は可能です。 某パーソナルジムが、トレーニング希望者全員に新型コロナウイルス検査を施行することになったことが報道されていますが、この抗体検査をする目的はなんでしょうか。現在感染をしていないことの証明でしょうか。あるいは抗体をもっている人だけ選別することでしょうか。 |
2020年5月30日(土) |
感染症の歴史と薬 |
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感染症とは、ウイルスや細菌が体内に侵入して増殖し、発熱・下痢・せきなどの症状がでる状態をいいます。スペイン風邪をはじめ、人類は、感染症と常に戦いながら、あるいはある意味でこれらの微生物と共存しながら生きてきました。 ひと昔前、日本では人々がおそれていた感染症として結核があります。結核死亡数は昭和18年約17万人に達し、その多くは20代前半の青年でした。有効な結核の薬が十分でなかった当時、結核の治療は外科手術が主流でした。私が大学で所属していた日本胸部外科学会は、結核外科の治療を主眼として昭和23年に発足しています。 昭和35年に発刊された遠藤周作の「海と毒薬」は、九州大学生体解剖事件を題材とした小説ですが、中にでてくる結核手術である胸郭成形術(肋骨切除により、結核でおかされた肺を虚脱させ排菌を停止させる手術)の場面では、「第一肋骨切除にともなう出血から、患者が手術中に死亡する場面」が生々しく描写されています。 その後、昭和18年のストレプトマイシンにはじまった抗結核薬の開発は、昭和23年パス、27年イソニアジド、29年ピラジナ、36年エタンブトール、そして昭和38年のリファンピシンに至り、結核の死亡率は急速に低下しました。この抗結核薬の普及により、結核の標準治療は外科医の手を離れて内科に移行しています。 現在、新型コロナウイルスに対して、結核のように有効な薬の開発が1日も早く待たれています。 細菌に対する抗生物質は数多く臨床で用いられている一方で、ウイルスに対する薬の種類は圧倒的に少ないのが現状です。 これはウイルスが細胞内に寄生して、細胞側の機構を利用しながら増殖するため、ウイルスの増殖を抑えようとすると、細胞側の機能に影響してしまい、正常な細胞を壊してしまうためです。また、ウイルスに感染し、細胞内で増殖しはじめた時点では、自覚症状に乏しく、症状が出現して検査が陽性にでる時期になると、すでにウイルス量はピークを迎えており、ウイルスの増殖を抑制しても症状が緩和しにくく、またウイルスに対する過剰な免疫反応がおこると抗ウイルス薬だけでは対処が困難になるためです。 【以下日本の結核死亡数におけるグラフ(筆者作成)】 |
2020年5月24日(日) |
新型コロナウイルス感染症の感染時期 |
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台湾衛生福利部疾病管制署(台湾CDC)から、5月1日にJAMA InternalMedicine(オンライン版)に発表された論文には、100人の感染者と2761人の接触者の追跡結果から、新型コロナウイルス感染症における「時期における感染力の違い」が報告されています その要点は「新型コロナウイルスは、発症前から発症5日目までに周囲に感染させるリスクがあるが、発症6日以降での感染リスクはほとんどない」とするものでした。 以前から、このウイルスは発症前からの感染リスクがあることは知られていましたが、「発症後は5日までに感染力があり、6日目以降はない」とする報告は事実であるとすれば衝撃的です。ウイルスはすこしずつ変異しているので、台湾での流行がそのまま世界レベルであてはまるかどうかは疑問ですが、これが事実だとすれば、肺炎を起こして入院を要するのは通常は発症5日以降ですから、入院した時点ではすでに感染力はなく、現在重症肺炎を治療している医療従事者からみると、ある意味朗報です。 その一方、発症前あるいは発症早期において、感染力が強いということは、家庭内での感染が最も問題となるということになります。 その意味でも、PCR検査の拡充、抗原検査の普及が急がれています。 |
2020年5月19日(火) |
今と昔の通信手段 |
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私が医師になった時期は、PC、携帯電話、インターネットはもちろん、ワープロさえなかった時代で、大学病院からの呼び出しは、ポケットベル、スライド作りは手書き、資料の検索は、図書館で目次を一つ一つみながら探していました。現在、携帯電話は生活の必需品ですし、講演会をする時もPCのおかげで講演直前まで自分で内容を変更することが可能です。また、医療現場でもオンライン診療や、ロボット支援手術のおかげで、遠隔で手術もできる時代になりました。学会や研究会も、このところWEB上での発表や、ZOOMでの検討会になっています。新型コロナウイルス感染が世界中に広がった現在、もしこれらの通信手段がなかったら、どのような世界になっているのかは想像がつきません。 その一方で、SNSなどを通じて、風評被害や誤った情報が一瞬で拡散する時代になっていることも事実です。長野県の住職からは、年に数回「はがき伝導」としていろいろなお話のお手紙をいただきますが、一瞬で膨大な情報を受け取ることのできる現代において、1枚のはがきのほうが、訴える力が大きいように感じます。 |
2020年5月18日(月) |
新型コロナウイルスに対する検査 |
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報道でご存じの通り、現在新型コロナウイルスに対する検査方法には@PCR検査 A抗原検査 B抗体検査があります 日本では、PCR検査が十分に施行されていない現在、厚生労働省は5月13日に抗原検査キット(富士レビオ)を承認しました。4-6時間を要するPCR検査に比べ、判定までの時間が約30分と短時間で、インフルエンザ検査のように「咽頭ぬぐい液」を採取し、試薬といっしょにカセットに滴下する手技のため、診療所等で外来検査が可能な点が注目されています。ただ、現在キット発売元の富士レビオからの報告では、「報道が先走りしており、供給をどのように行うのかがまだ確定されておらず、一般の医療機関で使用できるのはかなり先になりそう」とのことです。また精度の点では、現在最も精度が高いとされるPCR検査でも、その感度(陽性の人を陽性と判断できる率)は約70%であり、10人中3人は、「陽性でも陰性」とでる可能性がありますが、抗原検査は、このPCR検査よりも精度が落ちるとされています。 また、Bの抗体検査に関して、時々施行されている例が報道されており、実際現時点でその検査キットは診療所でも入手は可能のようですが、やはりその精度が低い点と、陽性判断ができる時期が問題です。ウイルスに感染すると、人間の体は、IgM、IgGといった抗体を産生し、ウイルスと戦いますが、感染の比較的早い時期にできるIgM抗体においても、「陽性」と判定されるまでは、発症後1〜2週間を要するとされています。新型コロナウイルス感染症は、重症化する人をどれだけ速くみつけて治療を開始するか、が問題ですが、そのためには発症から1週間以内に診断することが必要になります。 また抗体検査は、現在のところ診断用の医薬品としての認可がなされておらず、研究用としての位置づけのため、全額自費扱いとなっています。 |
2020年5月14日(木) |
「相談センター」に相談する目安の変更に対して |
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厚生労働省は新型コロナウイルス感染が疑われる人が「帰国者・接触者相談センター」へ相談し、専門外来を受診する目安を変更し、従来の「37.5℃以上4日間」という体温の目安を削除しました。相談しても「体温が条件にあてはまらないため、PCR検査がうけられなかった人」の中で、軽い風邪症状から急速に悪化する症例が相次いだことが変更の背景にあると思われます。 ただ今回の変更は、逆にいえば、基準があいまいになってしまいました。 要するに「体調が悪ければ、特に高齢者や、基礎疾患のある人は、はやく相談してPCR検査をうけるよう」との意味にとれますが、実際は基準があいまいになった一方で、現在のPCR検査の体制では、相談をうけた人がそのまま全員PCR検査がうけられるとはとても思われません。 また、「高齢者は重症化する」といっても、PCRを優先的にうけさせてもらえる年齢は何歳からなのか、「糖尿病が重症化する基礎疾患である」といわれても、食事療法だけでコントロールできている人と、インスリン注射が必要な人でのリスクは大きな差があると思われます。 重要なことは、急変する症例をはやく診断して、専門医療機関で入院加療ができる体制を早急に作ることであり、そのためには @プライマリケアをするすべての医師が、一人一人の患者さんに対して、検査が必要かどうかを可能な限り判断すること(実際はこれが一番難しいのですが) Aその判断に基づいてPCRをすみやかに施行できる体制を整えてもらうこと B状態が変化した患者さんを、速やかに入院加療のため受け入れてもらえるよう、保健所ならびに専門医療機関の余力を残すため、周辺の医療機関は負担をできだけかけない努力をすること、が必要と考えられます。 特に、PCR検査は、マスコミが報道しているようなドライブルスルー検査を拡充する前に、「医療機関からの依頼されたPCR検査をすべてうけいれる体制を整える」ことのほうが先決であると思っています。 |
2020年5月10日(日) |
現在までの発熱外来 |
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2月28日より「発熱外来」として診察時間をわけておこなっています 緊急事態宣言が延長され、5月いっぱいはこのまま「発熱外来」を継続いたします。 発熱外来専用にかかってくる電話は、すべて看護師が交代で対応させていただいています。4月26日の時点で、この臨時回線で対応したのは170件ありますが、そのうち113件(66件)は、「特にすぐに発熱外来での対応」を要しない御連絡で、その多くは、「特別に症状はないが、保健所や相談センターがつながらず不安」といったご相談でした。 57件 34%が発熱外来で対応させていただきましたが、そのうち「新型コロナ感染症」の可能性があるためPCR検査を依頼したのは8人でした。 現在まで8人とも保健所からの連絡では全員「陰性」の結果報告をいただいています。現在、神奈川県でPCRが最も多いのが、横浜市、2番目が川崎市で、相模原市は3番目に多い市になっています。 |
2020年5月4日(月) |
発熱外来 |
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残念ながら、現在神奈川県ではどの医療機関も院内では、独自にPCR検査を施行できず、「新型コロナ感染症の疑いのある患者さん」に対しては、医療機関から保健所に連絡して依頼する形をとっています。 現在当院で行っている「発熱外来」は、発熱のある患者さんに対し「PCRが必要かどうか」をみるための、いわゆるゲートキーパー(「門番」と訳されますが、医学領域では患者さんを一番はじめにみる診療所のホームドクターが、専門医療機関に振り分ける役割を担っていることをしめしている)としての意味合いがあります。現在までのところ、当院でPCRを依頼した患者さんの中には、「陽性」だった方はいませんが、患者数が増加している現在、いつ「陽性」と診断される患者さんがでるかわかりません。医療機関としては、できる限りの院内感染症対策をとって診療にあたっていますが、常に我々にとってもリスクがあることも事実です。それでも、通常外来で来院される患者さんから「自分が万一発熱した時に先生に診てもらえるので安心できる」「自宅近くに、発熱患者さんを拒否しないクリニックがあってよかった」など声をかけていただくことが最近多く、逆に患者さんのほうから「先生こそ体に気をつけてください」と気にかけていただいています。 発熱外来は、私一人でできるものではなく、クリニックの看護師・事務のスタッフ全員が、嫌な顔もせず協力してくれているおかげです。 自分も63歳になり、クリニックの中では、感染により重症化するリスクは一番高い年齢ですが、呼吸器を専門としている以上、地域医療に対してできるだけの貢献をしたいと思っています。 |
2020年4月19日(日) |