神奈川県相模原市の呼吸科・循環器科 しなだ呼吸器循環器クリニック 【呼吸器科・循環器科・内科】

しなだ呼吸器循環器クリニック

神奈川県相模原市緑区橋本3-14-1 橋本メディカルビル2階 TEL:042-700-3322
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院長コラム


 雑誌報道におけるPCR検査の目的について
投稿:
8月・9月号の「週刊現代」「女性セブン」に「PCR検査ができる医療機関」として当院も取り上げられていますが、当院は両者の出版社からは、一度も事前に掲載承諾の連絡を受けておりません。
8月16日のコラムでも述べたように、当院でPCR検査を開始した目的
@重症な呼吸器疾患や心臓疾患のある患者さんが多く来院されていること
A保健所あるいは医師会を経由するPCR検査を受けられるまでるまでの時間が延びていることB各病院あるいは診療所の特性から感染対策ができない、または感染症の疑いのある患者さんを診察できない医療機関(透析の医療機関や産科等)から、当院を受診される患者さんが増加していること、が本来の理由です
 重症患者の臨床データーは着実に蓄積されている一方で、その初期像はまだ十分解っていないのが実情であり、診療所のように発症数日で来院する患者さんにおいては、何をもって新型コロナウイルス感染を疑うのかは不明な点も多くあります。残念ながら、新型コロナウイルス感染症は有効なワクチン、有効な治療薬が出るまでは、感染者が0になることはあり得えず、死亡者をどれだけ減らすかを第一に考えることが必要な段階です。
 私も開業前大学病院で、約23年間胸部外科医として診療にあたってきましたが、呼吸器および循環器の重症患者においては、医師のみならず、看護師・検査技師など医療従事者には、新型コロナウイルスでなくても大変な負荷がかかります。「早期に診断して、重症化する前の患者さんをスムーズに専門医療機関にわたす」ためには保健所および病院において十分な余力がある状態が必要であり、医療機関側が「切迫してきている」と感じてきた段階では既に現場は回らない状態になっています。
 最も早期に患者さんに接する診療所は、感染対策をとりながら、必要と思われる人にはすみやかに外来での診断ができる体制が必要であり、少なくとも病院に紹介する際は、紹介患者が「コロナウイルス感染症であるか、ないか」を診断できているだけでも、病院側の負担は大幅に軽減されるものと考えられます。診療所は常に専門病院に対するゲートキーパー(門番)としての役目があります。
 7月17日に、「無症状の方の唾液PCR検査」も認められたことから、全国で、この無症状の方に対する自費診療としてのPCR検査をする医療機関は増加していますが、「発熱外来」を設けて病院や診療所で保険診療としてPCR検査を実施している施設はまだごくわずかですその理由として
@発熱外来を行う場合には、医療従事者が完全な感染防御が必要
A一般の患者さんとの接触を防ぐため、動線や診察室、外来時間をわける必要がある
B発熱外来を行うことは、医師のみならず、看護師・医療事務など診療所のスタッフ全員がそれなりのリスクをかかえることになる
CPCRを保険診療で行うためには事前に各自治体と契約を交わす必要があること、などがあげられます。
 今回の雑誌にとりあげられているのは、無症状の方が、いわゆる「陰性証明書」を希望されて来院される場合です。当院が保険診療とは別に、自費診療としてPCRを同時に開始したのは、あくまで、仕事での移動やお店の継続等の経済活動を円滑にするため、少しでも不安材料を軽減することの社会的な目的であり、呼吸器疾患を専門とするクリニックの本来の目的ではありません。
 「PCR検査を可能な限り増加させるべき」とする一部の報道において、
無症状者に対してやみくもにPCR検査を増やせば、保健所などがその濃厚接触者の追跡におわれる業務がさらに増加することで、本当に必要な人に対するPCRがさらに遅れることになります。新型コロナウイルスは感染しやすい感染症である一方で、現在まで死者は1154人(8月20日現在)で、昨年の季節性インフルエンザの死者3571人を大きく下回っており、PCR陽性者の9割以上が無症状あるいは軽症である現在、公費の使い道は、重症患者をみる病院および経済活動を回すためのお金として重点的に使うべきと考えています。

2020年8月23日(日)

 唾液PCR検査および新型コロナウイルスにおける検査について
投稿:
発熱外来において、従来は保健所あるいは医師会が行っているPCR検査を依頼していましたが、現在神奈川県における感染者の急増にともないPCR検査は、依頼してから5-7日間の待ち時間が生じています。当院では呼吸器や循環器疾患を有している方が大勢おられ、感染すると重症化する可能性のあるため、早期に診断することが必要となっています。そのため7月20日より院内で唾液PCR検査を施行しています。鼻の奥から綿棒で粘液を採取する従来のPCR検査は、検査後におきる「くしゃみ、咳」のため医療従事者がしぶきをあびることから、防御服、N95マスクなどの厳重な感染対策が必要であり、また検査後に生じるエアロゾルを予防するには、完全隔離された部屋、陰圧室、あるいは屋外での検査が必要なため診療所で施行するには高いハードルがありました。

62日 厚生労働省は新型コロナウイルスの感染を調べるPCR検査において、国立感染症研究所の「鼻の奥の粘液を使ったPCR検査で陽性となった感染者の8593%で、唾液でも陽性と判断された」との研究結果をもとに、発熱などの症状が出てから、9日目までは唾液を使うことを可能とする通知を出しました。

唾液検査では、飛沫やエアロゾルにともなう医療従事者や一般外来患者に対する感染リスクがなく、直接患者さん自身が専用容器に出した唾液を、サージカルマスク、手袋のみをした看護師が3重梱包して検査会社に提出するだけなので、診療所においても十分可能です。3週間おこなった発熱外来での検査では、幸いなことに現在まで陽性者はみられず、現在のところ相模原市において市中感染はそれほど蔓延している印象はありません。また7月17日には無症状者における唾液PCR検査も認められたことから、仕事等の理由から「陰性証明」が必要な方たちからのお問い合わせが増加しています。(無症状の場合はすべて自費検査)

新型コロナウイルス感染症においては、PCR検査、抗原検査、抗体検査の主に3つの検査があります。それぞれに特徴があり、現在の適応および特徴を表にまとめました(「コロナウイルス検査方法の比較」参照)。

唾液PCR検査は、検体を検査会社に提出した翌日の夜間に結果が送られてくるため、早くても結果判定までには2日を要しています。最も早いのは抗原検査における簡易キットでの検査です。これは、インフルエンザ検査で行われている検査とほぼ同じ方法であり、外来での簡易キットにより約30分程で結果がでますが、欠点として、@検査精度がPCR程よくない A唾液での検査は未だ認められていない(現在研究段階)ことがあげられます。そのため現時点では当院では採用していません。今後唾液による抗原検査簡易キットが発売されれば、外来で早期に診断が可能になるかもしれません。少し特殊ですが、SATIC法と言われるPCR法とは異なる核酸増幅法を用いた迅速検査法も開発がすすんでいます。これは唾液検体と試薬を混ぜて25分程度で検査結果が判定可能で、しかもPCRとほぼ同等の精度がある検査とされており、今後の推移に期待が持たれています。

検査を受ける方、または受けた方に最も注意していただきたいのは、どのPCR検査においても、その感度は約70%です。検査で陰性と判定されても、その後「陽性」と判定される可能性は常にある、ということはくれぐれもご承知おきください。




2020年8月16日(日)

 PCR検査について
投稿:
東京・神奈川での新型コロナウイルス感染症が増加しています
従来PCR検査は、原則として保健所をとおしての依頼でしたが、まだ検査態勢は十分ではありません。呼吸器疾患をあつかっている当院では、発熱の患者さんも拒否せずにうけいれる体制をとっており、そのため、可能な限りの感染対策をとっております。(発熱の患者さんは、診察室および導線・時間をわけて対応をとっています。)
そのため、今後新型コロナウイルス感染が疑われる患者さんにとって、できるだけ迅速な診断が必要となっています。従来から報告されてきた唾液によるPCR検査は、患者さんにとっても医療従事者にとっても負担が少ない検査方法ですが、通常のPCR検査と比べてその精度が検討されていました。最近、発症9日までは、咽頭鼻腔からのぬぐい液と唾液検査の結果がほぼ一致することがわかり、保険適応がなされています。現在相模原市では、医師会、および自治体で今後の検討がされていると聞いていますが、呼吸器・循環器を中心として診療している当院では、先駆けて唾液検査を施行するため、すでに検査会社から採取するための容器をとりそろえ、スタッフもその採取手順も取得しており、まもなく開始予定です。健康保険が適応となるためには、相模原市との契約が必要ですが、すでに書類は提出済みですので、契約が成立しだい検査を開始いたします。症状がある方に取っては保険診療が可能です。
ただし、検査は発症後9日以内に行う必要があり、また新型コロナウイルス感染症が疑われた場合にはじめて行うことができる検査のため、施行する、しないはすべて医師の判断によることをご了承ください。(保険診療でおこなった場合は陰性、陽性を含めてすべて相模原市にその結果と経緯を届け出る必要があります)
症状がない方、および陰性証明書が必要な場合等はすべて自費になります。
また唾液PCR検査にあわせて、従来施行してこなかった抗体検査も、精度の上昇および、複数の抗体検査をあわせることにより疾患に対しての防御可能な免疫ができていることが報告されたことを踏まえて、抗体検査(すべて自費)も開始予定です。抗体検査はあくまで過去に感染したかどうかを判定するものですから、過去に何らかの新型コロナウイルス感染を疑う症状があった場合、および 発症後10日以上経過した場合に行われる検査です。
詳しくはホームページ上で随時お知らせいたします

2020年7月19日(日)

 見えるものと見えないもの
投稿:
 現在は外来で呼吸器・循環器の内科をしていますが、大学時代は胸部外科医として毎日手術をしてきました。若い頃は、癌の患者さんに対しては、癌を根こそぎ取る事だけを考えていましたが、外科医となって15年くらいしたある日、肺癌の手術が終わって退院したお婆ちゃんから「おかげさまで大好きな花の世話ができるようになりました」と言われました。その時「自分がしている手術の目的は、癌を取り除くことではなく、癌を切除することでその人がもっていた正常な組織の機能を守ってあげること」なのだということに始めて気づきました。それ以来、今まで当たり前にしてきた手術は、「癌をみて取る手術から、癌の陰にかくれている正常な組織を見つけて、癌から切り離してあげる手術」に変わりました。
 現在の手術は、内視鏡やロボット支援手術などの進歩により、患者さんにとって侵襲の少ない「低侵襲手術」になっていますが、「低侵襲」という言葉は、「患者さんが生まれた時に与えられた正常な組織をできるだけ大切に守ってあげる」というのが本来の概念です。癌だけを見るのではなく、癌の陰にかくれている正常な組織が見えるようになって、はじめて一人前の外科医に育つのだと思っています。
 水墨画においては、絵師は、描いている対象物のみを意識することなく、常に周囲の「余白」を意識しながら描いており、それによって単に紙の余白にすぎなかった部分が、完成時には「永遠を感じる空間」となっています。
 今年は、禅についての著作を英語で著し、日本の禅文化を世界に広くしらしめた鈴木大拙氏の生誕150年にあたります。鈴木大拙氏はアメリカから帰朝し、初めに東京大学印度哲学研究室で仏教の話をした時、机の上においてある花瓶を指さして、「この花瓶をはじめから「花瓶」と見てしまうと、それ以上のものは生まれません。「花瓶を花瓶とみて、花瓶とみない」見方が必要なのです」と話されたそうです。
 なんだか禅問答の世界にはいったようで難しい話ですが、要するに花瓶をはじめから花瓶だと決めつけたら、この入れ物は花瓶でしかありませんが、見方をかえれば、器にして水を飲む事もできるし、寝たきりの人の尿瓶(しびん)にもなるかもしれません。
 この講義を聞いた仏教学者である紀野一義氏は「花を見て花と見ず」という言葉で表しています。
 紀野氏によれば、美しい花を見た時、人は「きれいな花ですね」と言いながら、実はそばにいる人の反応をみている。自分が「美しい花」である事がわかる人間である、ということを周囲の人がわかるように話している。しかし、本当に花の美しさに感動する人は、自ら肥料をやり、虫をとり、風雨から花を守る努力を続けて、しかもそれを苦労とは思わず、むしろ楽しみに感じながら花を育てている。そのような人だけが、花が咲いた時に真に花の美しさに感動して「美しい」と言っている。
(禅 現代に生きるもの NHKブックス)
 目に見えているものだけにとらわれると、本当はその後ろにあるもっと大切な物を見失っているかもしれません。 金子みすずの詩 があります

星とたんぽぽ
青いお空のそこふかく
海の小石のそのように
夜がくるまでしずんでる
昼のお星はめにみえぬ
見えぬけれどもあるんだよ
見えぬものでもあるんだよ
ちってすがれたたんぽぽの
かわらのすきに だアまって
春のくるまでかくれてる
つよいその根はめにみえぬ
見えぬけれどもあるんだよ
見えぬものでもあるんだよ


2020年6月28日(日)

 ペイルブルードット
投稿:

アメリカの宇宙学者カール・セーガンの宇宙カレンダーによれば、150 億年前、現在の宇宙がビックバンによって始まった時刻を1 月1 日の午前0 とし、今現在を12 月31 日の午後12 とすると、地球が誕生したのは10 月20、生命が誕生したのは12 月14 、人類の祖先が生まれたのが12 月31 日午後9 、そして現代文明は12 月31 日の午後1159 を過ぎてからだそうです。 

人間の一生を仮に100 年としても宇宙の時間からみればたった0.2秒です。そのうち半分は寝たり食事をしたりしていますから0.1秒、またその半分くらいの時間は雑談をしたりボーッとしたりしていますから、実際に人間が一生の間で何かをなしえる時間は、宇宙からみれば0.05秒にも満たない時間になります。

このようなほんの一瞬の出来事にすぎない時間の中で、人間は多くの人と交わり、笑い、泣き、悩み、喜び合いながら生きています。今の自分がこうして生きていられるのも、自分を産んでくれた2人の両親がいたからであり、その両親がこの世に生を受けたのも、さらに4人の両親がいたからであることを考えると、今ある自分の生は無数の人達がいたおかげである事に気づきます。

0] は無限大あっても0ですが、0以外の正の数は、たとえどんな小さな数でも、合わされば無限大になります。何もしないところからは、何も生まれませんが、一人一人がわずかでも前に進む努力をすれば、最後は大きな前進になります。

どんなにあがいても一人の人間ができる事は極わずかです。ほんの一瞬の人生の中で、自分が少しでも前に進むことができれば、その思いは次の世代に引き継がれていきます。

 1977 年に打ち上げられた木星探査用ロケットボイジャー1は、太陽系の写真を数多く地球に送り続けた後、最後に振り返って撮影した写真の1枚には、60 億kmのかなたに地球が1点の光として写っています。ボイジャーが、それまでに送り続けてきた太陽系の貴重な写真の中において、1点の光しか写っていないこの最後の写真は、科学的にはほとんど価値のないものですが、地球があらためて太陽系の一員であることをしめす最も有名な写真として「ペイルブルードット(Pale Blue Dot」と呼ばれています。この写真を最後にボイジャー1号はその任務を終えて、宇宙の闇の中に消えていきました。

新型コロナウイルスが世界中に蔓延している中にあっても、人類はいまだ宇宙からみれば、このわずかな1 点の光の中で多くの争いを続けています。

死ぬ最後の瞬間を迎えて、自分の人生を振り返った時、自分が歩んできた過去の軌跡が1点でも輝いて見える、そんな人生を送りたいと願わずにはいられません。


Pale Blue Dot】

ボイジャーが最後に振り返って撮った写真:中央の1点の光が地球

Pale Blue Dot:ボイジャーが最後に振り返って撮った写真:中央の1点の光が地球           NASA  Jet Propulsion Laboratory より


2020年6月18日(木)

 息苦しいと思ったら
投稿:

不安感のためか、「過換気症候群」の患者さんが最近増加しています。

過呼吸になると、血液中の炭酸ガスが低くなりすぎ、そのため呼吸をつかさどる神経(中枢神経)により呼吸は抑制され、患者さんは呼吸困難を感じます。頻呼吸のため、血液がアルカリ性に傾くことで血管が収縮し、手足のしびれや筋肉のけいれんもみられるようになります。 このような患者さんの多くは、「息が吸えない」と訴えて来院されます。

 人間はたえず呼吸をしていますが、無意識に呼吸をしていても必ず肺の中には空気が残っています。通常の呼吸をしながら、息を吐いた状態でも、その後にもさらに息を吐き出すことができますが、これを医学的には「予備呼気量」と呼んでいます。予備呼気量の空気を吐き出しても、肺はペチャンコにつぶれることはありません。最大限に吐き出しても、さらに肺の中に残っている空気が「残気量」です。

主にタバコを吸うことによって発症するCOPD (慢性閉塞性肺疾患)の患者さんは、この残気量が増えることによって肺が過膨張となり、その結果新しい空気を吸い込むことができなくなっています。

 健常な肺の人でも、息を「半分だけ吐いた状態で、次の息を吸う」といった呼吸を数回くりかえすと息苦しくなりますが、COPD の患者さんが感じている息苦しさは、まさにこの状態です。COPD は息が吸えない病気ではなく、息を吐けない病気です。

「息が吸えない」と言ってくる患者さんに対して、「息を吸えないと思ったら、まず息を吐き出すことを意識してください。ゆっくりと、できるかぎり息を吐き出せば、その後は十分に息を吸うことができますよ」と説明しています。

 人間の一生は「息を吐くことから始まって、息を吸うことで終わります」

その証拠に、赤ちゃんが生まれた時は「産声をあげる」といいますが、その時は息を吐き出しています。

 亡くなる時は「息をひきとりました」と言われますが、すなわち息を吸って、その一生を終わります。

生きている間は、「息を吸うことより、息を吐くこと」のほうが重要なのです。

新型コロナウイルスのおかげで、多くの人にとって、今まで無意識に行っていた呼吸を、意識する時間が増えたと思います。「息を十分に吐き出して、新鮮な空気を思い切り吸い込むことができる生活」に一日でも早く戻りたいものです。


2020年6月14日(日)

 「with コロナ」は可能なのか?
投稿:
東京都は「これからの時代は新型コロナウイルスと共に生きる必要がある」ということから「with コロナ」を掲げました。
 生物界では「共生」という言葉がありますが、「共生」を辞書で引くと「いっしょに生活すること。二種の生物が互いに利益を交換して生活する相利共生をさす.スーパー大辞林」と書かれています。
 地球ができた当時、大気は水蒸気と二酸化炭素に満ちており、生物は存在しませんでした。約40億年前、海洋中に光エネルギーを利用して有機物を合成する際に酸素を放出する「光合成細菌」が出現しました。これにより地球の大気は酸素濃度が上昇し、生物にとって有害な紫外線をブロックしてくれるオゾン層が形成されました。そして現在に至るまで、微生物は生物が暮らすための地球環境を維持してくれており、細菌の多くは人間と共に、身体のいろいろな部位で常在細菌叢(そう)を作り、人間にとって相利共生関係にあります。
 「生物」には次の特徴があります。
@「細胞」からできている 
A遺伝物質DNAによって自己を複製する B環境からの刺激に応答する
C環境からエネルギー物質(ATP アデノシン三リン酸)を合成し、そのエネルギーで生活・成長する。
 ところがウイルスは「蛋白質と核酸(DNA、RNA)からできた分子集合体」であり、細胞や代謝系をもたず、自己複製はしますが、感染した宿主側の物質を用いる必要があり、宿主の中でしか増殖できないことから、「生物」の定義にはあてはまらない存在です。
 そのため ウイルスは、人類と「共生」するといっても、一方的に人類の体を借りて増えているだけであり、少なくとも人類の側にとっては、なんら利益をもたらしてくれるものではなく、「共生」というより「人の都合も聞かずかってに同居したきたもの」のような存在です。
 「ウイルスと共生して生きよう」というのは聞こえはいいですが、たとえばエボラ出血熱のような致死率の高いウイルスとは、とても「共生」したいとは思いません。
 新型コロナウイルスの立場に立てば、「自分は地球からいなくなりたくない」のであれば、せめていっしょにいても迷惑をかけない存在でいてほしい、と願わずにはいられません。ウイルスにとっても、その毒性が強いあまり自分が感染した宿主がいなくなってしまうようでは自分も生きていけませんから、時間が経過すれば人間にとっては弱い存在のウイルスだけになります。
 毒性の強いウイルスとして存在している間は、人間のほうが自分を守るための防御策をたてるしか方法がありません。そのために我々は、有効なワクチンができるまで、そして本当はいっしょに居たくはありませんが、ウイルスのほうがどうしても家から出ていきたくないのであれば、いっしょに居ても迷惑をかけない存在となるまでの間、もう少し辛抱強く、人間どおしの距離をとっていくことが必要なのかもしれません。
 子供の頃、家族全員でみていた「8時だよ。全員集合」の志村けんさんを奪った新型コロナウイルスに対し、「共生」というのは癪(しゃく)なので、[with コロナ」の代わりに、独自にキャッチフレーズを考えてみました。
「ちょっとだけよ コロナ」(これは加藤茶でした)

2020年6月4日(木)

 N95マスクのお礼
投稿:

529日当院におけるテレビ朝日報道ステーションの取材で、

「医療用マスクが不足している」ことを報道していただいたところ、

各地からN95マスクを送っていただきました。これから予想される第2波、第3波を迎えるにあたり、スタッフ一同呼吸器のクリニックとして今後とも地域医療に少しでも貢献していきたいと思っております。皆様のご好意、本当にありがとうございます。この場をかりまして御礼申し上げます。


2020年6月2日(火)

 現時点での抗体検査について
投稿:

新型コロナウイルス感染症において、抗体検査は現在キットをとりよせれば診療所でも検査は可能です。
抗体検査を施行する目的としては
1:現在自分が新型コロナウイルスに感染しているかどうかを知りたい
2;自分に抗体があり、今後感染しない状態かどうかを知りたい
の2つがあるかと思います
 先にお話したように、ウイルス感染をおこすとその免疫反応としてIgM、IgGという抗体が産生されます
この抗体は、通常感染後2-3週間後に上昇するとされ、免疫のはじめに作られるIgM抗体は、短期間で消失し、その後免疫抗体として強力なIgGが上昇し、しばらく持続して上昇するとされています(新型コロナウイルスではIgMはできにくいとする報告もあります)
感染後2週間以上経過していると、すでに発熱をふくめた何らかの症状があるか、あるいは重症肺炎をおこしている時期であり、PCR検査が拡充している現在、精度の高いPCR検査をうける必要があります。
そのため 抗体検査は「症状がまったくないが感染が心配。しかし現在PCR検査をうける対象にならない」という場合と思われます。しかし、先にお話したように新型コロナ感染症は感染早期に感染力が強く、抗体が検出される時期になるとすでに周囲への感染力のピークはすぎていることになり、感染予防の意味があるかどうかは疑問が残ります。
 また自分に抗体があるかどうかの目的で検査をうける場合、問題となるのは
@現在いくつか使用されている抗体検査キットの精度にバラツキがある
A「抗体が陽性」イコール「感染はしない」といういわゆる免疫パスポートではない、の2点です
 5月20日付けで日本感染症学会が 現在使用されている4社の抗体キットの精度を報告していますが使用するキットによって精度にばらつきがあると結論づけています。特に特異度はキットによっては90%以下のものもあり、本当は陰性なのに「陽性」と誤って判断されてしまう可能性があることになります。またWHOのテドロス事務局長は4月24日の定例会見で、「抗体検査が陽性だったとしても再度感染しないという証拠はない」と明言しました。抗体は「ある」だけでは感染防止にはならずウイルスと戦えるだけの十分量がないと意味がなく、また新型コロナウイルスの抗体がどの程度持続するのかはまだわかっていません。

 某パーソナルジムが、トレーニング希望者全員に新型コロナウイルス検査を施行することになったことが報道されていますが、この抗体検査をする目的はなんでしょうか。現在感染をしていないことの証明でしょうか。あるいは抗体をもっている人だけ選別することでしょうか。
 抗体をもっている人だけが入会できるとすれば、日本の抗体保有率の報告では一般に0.5〜1%程度ですので、100人申し込んでもせいぜい1人くらいしか入会できないことになります。
 逆に、当初抗体が陰性の人が入会したとしても、トレーニングをうける数ヶ月間の間、定期的に抗体検査を施行しなければならず、また途中で抗体陽性となった人がでた場合、すでのその周囲の人たちは濃厚接触者になる可能性があります。結局は「できるだけ感染を予防する策をお互いにとる」といったことしかないことになります。
 少し調べたところ抗体検査キットの原価は概ね一人あたり5000円前後ですので、人件費を加えても、20000円以上で検査をおこなっている医療機関での検査を考えている方は「今の自分に検査が本当に必要かどうか」もう一度考え直したほうがいいと思われます。
 以上から現時点での抗体検査についての結論(私見)は以下のとおりです
@抗体検査を実施するならもう少し精度が安定したキットがでてから使用したほうがいいA新型コロナウイルス感染症において、急性期の診断目的からは疑問符が残る
B抗体検査は「市中にどのくらい抗体保有率が増加しているかのめやすとしての調査対象の検査」と考えられ、個人がうけても不確定な要素が多いC今後ワクチンが開発された時点では、将来的には抗体検査は、ワクチン再接種の判断には有効と思われる




2020年5月30日(土)

 感染症の歴史と薬
投稿:

感染症とは、ウイルスや細菌が体内に侵入して増殖し、発熱・下痢・せきなどの症状がでる状態をいいます。スペイン風邪をはじめ、人類は、感染症と常に戦いながら、あるいはある意味でこれらの微生物と共存しながら生きてきました。

ひと昔前、日本では人々がおそれていた感染症として結核があります。結核死亡数は昭和18年約17万人に達し、その多くは20代前半の青年でした。有効な結核の薬が十分でなかった当時、結核の治療は外科手術が主流でした。私が大学で所属していた日本胸部外科学会は、結核外科の治療を主眼として昭和23年に発足しています。

昭和35年に発刊された遠藤周作の「海と毒薬」は、九州大学生体解剖事件を題材とした小説ですが、中にでてくる結核手術である胸郭成形術(肋骨切除により、結核でおかされた肺を虚脱させ排菌を停止させる手術)の場面では、「第一肋骨切除にともなう出血から、患者が手術中に死亡する場面」が生々しく描写されています。

その後、昭和18年のストレプトマイシンにはじまった抗結核薬の開発は、昭和23年パス、27年イソニアジド、29年ピラジナ、36年エタンブトール、そして昭和38年のリファンピシンに至り、結核の死亡率は急速に低下しました。この抗結核薬の普及により、結核の標準治療は外科医の手を離れて内科に移行しています。

現在、新型コロナウイルスに対して、結核のように有効な薬の開発が1日も早く待たれています。

 細菌に対する抗生物質は数多く臨床で用いられている一方で、ウイルスに対する薬の種類は圧倒的に少ないのが現状です。

これはウイルスが細胞内に寄生して、細胞側の機構を利用しながら増殖するため、ウイルスの増殖を抑えようとすると、細胞側の機能に影響してしまい、正常な細胞を壊してしまうためです。また、ウイルスに感染し、細胞内で増殖しはじめた時点では、自覚症状に乏しく、症状が出現して検査が陽性にでる時期になると、すでにウイルス量はピークを迎えており、ウイルスの増殖を抑制しても症状が緩和しにくく、またウイルスに対する過剰な免疫反応がおこると抗ウイルス薬だけでは対処が困難になるためです。

【以下日本の結核死亡数におけるグラフ(筆者作成)】

日本の結核死亡数の推移


2020年5月24日(日)

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